7万部を超えるベストセラーとなった『日本語の大疑問』。待望の続編『日本語の大疑問2』の編者の一人である国立国語研究所の儲叶明さんは、「教科書に書かれている日本語」よりも、「日常生活の中で実際に使われているリアルな日本語」に興味を持っているそう。そんな儲さんは、どのようにして日本語をマスターしたのか? これまでの歩みを振り返っていただきました。
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日本語を学ぼうと思ったきっかけは?
── 儲さんは中国のご出身ですが、そもそもなぜ日本語を学ぼうと思ったのですか?
日本語を学び始めるきっかけは人それぞれですが、よく耳にするのは「アニメが好きだから」「マンガが好きだから」という理由です。でも、私の場合はこうしたカルチャーがきっかけではなく、むしろ偶然に近いものでした。
私は小学校3年生くらいから、英語の勉強をしてきました。大学に進学するにあたって、せっかく大学に行くのだから、これまで勉強したことのない言語にしようと思ったんです。そのとき、たまたま目に入ったのが日本語という選択肢でした。
── なんとなくの興味で「日本語をやってみようかな」と思ったんですね。
動機がそんな感じだったこともあって、最初のうちは苦労しました。大学1年生のときのテストは毎回不合格で、先生からは「わからないところがあったら、必ず聞いてね」と、特別に面倒を見てもらっていました。当時は、落ちこぼれと言ってもいい学生でしたね(笑)。
ところが、大学3年生くらいになって、ようやく要領がつかめてきたんです。日本語を勉強することの面白さがわかってきた。それで、日本語がものすごく好きになっていったんです。
大学を卒業してからは、みんなと同じように中国で就職し、サラリーマン生活を送っていました。でも、「将来は日本語教師になりたい」という思いが、ずっと心の中にありました。
それで、仕事をしながら日本の大学院を受験し、運よく合格することができたので、会社をやめて日本に来たというわけです。
── 国立国語研究所に入ったのは、大学院を卒業してからですか?
大学院に在籍していたころから、国立国語研究所のプロジェクト非常勤研究員として勤務していました。仕事が面白いので、大学院を卒業してからも自然と続けてきた感じですね。
「アメブロ」でリアルな日本語を学んだ
── 儲さんにとって日本語は外国語にあたりますが、日本語を学ぶときに心がけていることはありますか?
私は教科書に書かれている日本語よりも、日常生活の中で実際に使われているリアルな日本語が好きなんです。
なので、中国で日本語を勉強していたころは、日本人が書いている「アメーバブログ」を検索してよく読んでいました。
たとえば、子育ての日常をつづったブログや、進学の悩みをつづったブログ、病気と闘っている人のブログもよく読んでいました。
もちろん、学校の授業では教科書的な日本語もまじめに勉強しました。でも、こうした生身の人が書いた、リアルな日本語を読むことに喜びを感じていたんです。
── ブログを読んでいると、「ぴえん」というのはどうも悲しい時に使うんだなとか、そういうこともわかってきますね。
そうですね。初めは「これは何を表しているのだろう?」と思うのですが、しばらく読んでいるうちに要領がつかめてくるものです。こうした新語や流行語に触れることができるのも、ブログを読むことの醍醐味だと思いますね。
── 日本語で書かれた学術書を読むときに、工夫していることはありますか?
最初から最後まですべて読む人もいますが、私はそこにこだわらなくていいと思っています。
たとえば、一冊の本の中に複数の執筆者がいる場合は、自分の研究テーマに近い人だけを選んで読むとか、一部をピックアップして読むことはよくありますね。
── 最初から最後まで、すべて読む必要はないということですね。それでは最後に、儲さんから読者のみなさんへメッセージをお願いします。
『日本語の大疑問』の続編、『日本語の大疑問2』がついに出版を迎えました。この本は、難問ぞろいの質問に日本語の専門家が一生懸命考えて、わかりやすく回答した一冊です。
前作を読んでくださった方も、このインタビューを読んで初めて読んでみようと思った方も、ぜひ読んでもらえたら幸いです。
この本は正解を教えるというより、知的思考のプロセスを楽しんでもらうことを目的としています。
日本語というのは日常的に、私たちのすぐそばにあるものですが、当たり前すぎて気づかないこともたくさんあります。気づかなかったことに気づくことの面白さを、本書でぜひ体験してもらいたいと思っています。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】儲叶明と語る「『日本語の大疑問2』から学ぶ日本語研究の最先端」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
儲 叶明(ちょ・ようめい CHU Yeming)……国立国語研究所 プロジェクト非常勤研究員。専門は相互行為の社会言語学、言語人類学、語用論。近年では、中国語における「遊びとしての対立」に焦点をあて対人コミュニケーションを研究している。富士山登頂の経験あり。大変でした。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
書籍『日本語の大疑問2』はこちら
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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